2024/11/05 09:00
先日、ギリシャの最高級石鹸アマルシアが手に入ったので、“ギリシャ直輸入の商品” で販売を開始しました。価格は1個3,850円、2個セットで7,700円と、クノッソス石鹸(ノーマル)の5倍もの値段をつけさせていただきました。なぜこれほどまでに高価になってしまうのか?それにはこの石鹸の製法が他の石鹸とは大きく異なり、これだけの価格をつけなければ、産業として成り立たないからです。
この石鹸は、苛性ソーダを使わず、植物の灰を抽出し強アルカリ性物質を作り、それを反応剤にし、オリーブオイルに鹸化反応を起こさせ、石鹸に仕上げています。まさに自然界に存在する物だけで作った昔ながらの純粋なオーガニック石鹸です。しかし、この方法で強アルカリ性物質を得るためには、危険で大変手間がかかる作業を何度も何度も繰り返す必要があります。まず、どんな植物の灰でも強アルカリ性物質が作れるわけではなく、特定の強アルカリ性物質になりやすい植物、アマルシア石鹸でしたら玉ねぎアマルシアを栽培、もしくは採取し集める必要があります。次にそれをいく日も乾燥し、カラカラになったところで燃やして灰にします。その灰を水に溶かし、何度も何度も濃縮し、触れただけでも、皮膚がただれてしまうほど濃縮し、強アルカリ性の溶液を作ります。そしてそれをオリーブオイルに混ぜ石鹸を作ります。ヨーロッパにおいても、石鹸が長く普及しなかった理由は “油を石鹸に変える強アルカリ性物質を得ることがとても困難だった” という理由があります。そのため、長い間、石鹸は高価な品で、一般の人にはなかなか手が出せるものではありませんでした。その状況を変えたのが、苛性ソーダ、つまり水酸化ナトリウムの誕生です。苛性ソーダは塩(塩化ナトリウム)から大量に生み出すことができ、石鹸だけではなく、安価な反応剤として広く使われるようになりました。
苛性ソーダは劇薬であり、薬局で販売されているものの、水と反応すると熱を発っし、手に触れると皮膚をただれさせます。そのため、取り扱いには厳重な注意が必要となります。しかし、石鹸づくりにおいて苛性ソーダはその製造過程に必要なだけであり、完全に除去することができます。苛性ソーダの量とオリーブオイルの量の配合を間違えなければ、苛性ソーダは全て油を石鹸に変える反応剤として使われ、油と化学反応を起こし石鹸本体(脂肪酸ナトリウム)になってしまいます。ただ、万が一、苛性ソーダが残っていると、石鹸を使うたび、ピリピリと肌に刺激が残る石鹸になってしまいます。そのため、家庭で石鹸を作る場合は、オリーブオイルの配合量を多めにすることで、苛性ソーダ残存問題を解決しています。ただ、これだと、油が必要以上に多くなり、石鹸内に油が残ってしまうので、溶け崩れしやすく、また柔らかくてふにゃふにゃの石鹸になってしまいます。そのため、純粋にオリーブオイルだけで石鹸を作ることができず、溶け崩れしない、硬い石鹸に仕上げる油を加えて作ることがほとんどです。一方、クノッソス石鹸など工業的に作られる石鹸では、塩析という方法で苛性ソーダを完全に除去しています。塩析とは、塩を加えることで、水に溶けていた物質が固体になって現れる現象を利用したものです。この塩析処理により、ほぼ100パーセントの油を石鹸に変えつつも、反応しきれなかった苛性ソーダを完全に除去しています。
私がアマルシア石鹸を使ってみたところ、クノッソス石鹸に比べ、そこまで大きな違いは見つかりませんでした。しかし、やはり、アマルシア石鹸の方が、より自然な感じ、具体的には、泡立ちが弱く、ヌルヌル感だけのような印象を受け、洗い上がりはより繊細な気がしました。本当か嘘か分かりませんが、地球の歩き方2019-2020年版のコラムでは、“洗髪に使用すると頭が禿げた人の髪の毛が生えてくる石鹸” として紹介されていました。実際、頭につけて洗ってみると、髪がツヤツヤし、1本1本がしっかりした印象を受けます。私がアマルシア石鹸を使ってみた感想としましては、さすがに最高級と言われる石鹸だけに、とても上品で素晴らしい1品でした。苛性ソーダを嫌い植物の灰を反応剤に使い作られた石鹸にこだわる人もいますが、その気持ちも分かります。苛性ソーダを使わない石鹸こそ、まさに昔ながらの最も良い石鹸です。しかし、安全という面で考えれば、ただ天然と言うだけ。天然だろうが人工だろうが反応剤は危険なものに変わりなく、天然の灰から抽出した強アルカリ性物質も、苛性ソーダも、それほど違いはないように感じます。肝心なのは、反応しきれなかった反応剤を完全に除去しているかどうかです。その点に関しては、製造メーカーは1品でも問題があれば、全品回収になってしまうため、最新の注意を払っています。そのため、家庭で石鹸を作った時は怖いですが、販売されている石鹸では、そこまで気にしなくてもよいと、私は思います。
アマルシア石鹸は伝説の石鹸として広く名が知られているため、まがい物も出回っています。中華系と思われるECサイトなどで、2千円程度で販売されていたら、要注意です。その画像自体、どこかで拾ってきた画像であり、実際は販売されていなかったりします。私はそれらのサイトに引っかかったことはありませんが、調べてみると、お金を払っても商品を送って来ず、連絡もつかないそうです。悪質な業者になると、勝手に他店の連絡先を自分の連絡先として掲載していたりもします。アマルシア石鹸は、現在、日本で扱う業者はいないようです。そのため、時々、出てくる程度で、当店にしても2品入手できただけです。詐欺にはどうか気をつけてください。
※アマルシア石鹸は、10月31日に売れてしまったため、現在は販売しておりません。