2024/05/25 09:00

 石鹸は便利で衛生的なものです。しかも、使い古した食用油や廃棄する油脂という身近なもので作ることができます。しかし、石鹸が長いこと庶民まで普及しなかったのは、それら油を石鹸に変えるには、強アルカリ性の物質が必要であり、これらの強アルカリ性の物質を得るのが大変だったからです。

 昔は草や海藻の灰を濃縮して強アルカリ性の物質を得ていました。強アルカリ性の物質が得られる草や海藻は限られ、その限られた草や海藻を集めてきて、何度も何度もアルカリ成分を濃縮し、危険なほど濃縮したものを使うのですが、それは手間暇がかかる大変な作業でした。この状況を一変させたのが、化学薬品の登場です。そして苛性ソーダ、つまり水酸化ナトリウムが化学合成できるようになってから、石鹸を安価に大量に製造できるようになり、庶民まで普通に石鹸を使うことができるようになりました。そんな苛性ソーダですが、これは肌に触れると皮ふを溶かしてしまうほどの劇薬です。普通の人でも薬局に行けば買うことができますが、年齢要件は18歳以上、身分証明書と印鑑が必要です。

 石鹸は体につけるもの。それを思えば、絶対に人体に有害なものが含まれていてはいけません。しかし、油を石鹸に変えるには、強アルカリ性の物質が必要であり、強アルカリ性の物質はとても危険なものです。化学反応を起こすには危険な強アルカリ性の物質が必要ですが、それを絶対に残してはなりません。それが石鹸づくりの基本です。

 家庭で石鹸づくりをする場合、石鹸内に苛性ソーダが残らないよう、油の10パーセントが石鹸にならない程度に油を入れます。しかし、これだと油分が多い石鹸となり、泡立ちが悪く、やわらかくて溶けくずれしやすい石鹸となってしまいます。硬くてしっかりした石鹸を作るには、石鹸にならない油を全体の2パーセント以下まで落とすことが必要です。そこで工場では塩析(エンセキ)と呼ばれる方法で、苛性ソーダを含む液を分離、廃棄する方法を使用しています。塩析とは、タンパク質や低分子有機化合物をなどを含む水溶液に、高濃度の水溶性の塩類を溶解させることで、溶質が析出することを利用した分離・精製方法です。この方法により、油を十分石鹸に変えるとと共に、危険な苛性ソーダが残らないようにしています。

 家庭で石鹸を作った時など、苛性ソーダの量が多すぎると石鹸内にそれが残り、石鹸を肌につけると皮ふに刺激がある危険なものとなります。少しでもピリピリと感じたら、その石鹸は絶対に廃棄しなくてはなりません。一方、工場生産では、塩析により反応しきれなかった苛性ソーダを分離排除しているので、そういった心配はなさそうです。またこの塩析により分離された廃液を石鹸甘水と呼び、微生物を加え処理することで、その中の有効成分だけをさらに抽出し、利用することもされているようです。

 クノッソス石鹸もこの塩析により、油全体を石鹸にすると同時に、余分な苛性ソーダを完全に除去しています。安心して使っていただける製品です。