2024/04/30 09:00

 今回は “石鹸にした時、どの油がどんな特徴を持つのか?” を書いてみます。まず前提の知識として、現在、日本で売られている固形石鹸の多くは、牛のマークの牛脂石鹸です。この石鹸の原料の油は、ココナッツ油(やし油)が20パーセント、牛脂が80パーセントです。また植物性をうたう固形石鹸は、牛脂80パーセントのところをパーム油80パーセントに替えています。ココナッツ油(やし油)、パーム油など、なじみのない名前ですが、成分表を読んでみると、意外と身近な油であることに驚かされます。



泡立ちをよくする油 ココナッツ油(やし油)

ラウリン酸とミリスチン酸を多く含みます。

・ラウリン酸
 この脂肪酸は石鹸の泡立ちをよくします。また、この脂肪酸が含まれる油で石鹸を作ると、冷たい水でもよく溶け、一方、硬くてしっかりした石鹸になります。さらに、酸化しにくい飽和脂肪酸なので、石鹸がいたみにくくなります。

・ミリスチン酸
 石鹸の泡立ちを細やかで豊富なものにします。脂肪酸の融点の温度が高めなので、ラウリン酸よりさらに硬くてしっかりした
石鹸になります。その一方で、人体に好ましくないカプリル酸とカプリン酸も含みます。

・カプリル酸
 洗浄力はないうえに、皮膚に対して刺激となります。そのため石鹸作りにおいて、この脂肪酸を多く含む油は原料の油の内20%以内でおさえることが行われてきました。

・カプリン酸
 洗浄力はないうえに、皮膚に対して刺激となります。そのため石鹸作りにおいて、この脂肪酸を多く含む油は原料の油の内20%以内でおさえることが行われてきました。

 現在では人体に好ましくないカプリル酸とカプリン酸を除去したものが石鹸に使われています。特徴としては泡立ちがよいのと、石鹸のもちがよいことです。そのため、溶けくずれ予防や泡立ち促進のため、オリーブオイルなど他の油に混ぜて使われることが多いようです。

 パーム核油も同様の脂肪酸を多く含み、石鹸を作ると同様の特徴を持ちますが、パーム核油で石鹸を作るとくせのあるにおいが生じるため、石鹸作りでは嫌煙されています。


溶けくずれの少ない硬い石鹸にする油 パーム油

 パーム油はアブラヤシの真っ赤な果肉をしぼったものです。本来、赤い色をしていますが、脱色精製することで油色の液体になります。植物性の油の中では融点が高く、この油を混ぜることで、溶けくずれしにくい石鹸になります。市販の石鹸では、20パーセントのココナッツ油(やし油)に80パーセントの牛脂が中心ですが、牛脂の代わりにパーム油を使い、植物性をうたい文句とする製品も見られます。オレイン酸も40パーセントほど含まれるため、保湿力もあり、洗い上がりもさっぱりします。しかし、パーム油にはパルミチン酸が含まれ、これが肌によくないと言われます。

・パルミチン酸
 脂肪酸の融点が60度もあるため、パルミチン酸が多く含まれる油を原料に石鹸を作ると、冷水では溶けない石鹸となります。とても硬くてしっかりした石鹸ができ、酸化しにくい飽和脂肪酸なので、いたみにくい特徴があります。「パルミチン酸は脂肪線の増殖をおさえるため、肌にとってはよい脂肪酸ではない」という意見もあります。泡立ちはよくないですが、一度できた泡はしっかりしているため洗浄力は高めです。


溶けくずれしにくい硬い石鹸にしつつ皮膚の上に保護膜を作る油 ココアバター

 熱帯植物のカカオの果実中にある種(カカオ豆)からとれる油です。融点が高く、パルミチン酸とステアリン酸が多く、石鹸に加えることで、パーム油を加えた時よりさらに硬い石鹸になります。しかし泡立ちはよくありません。ただ、この油を使った石鹸の特徴としては、皮膚の上に薄いしっかりした膜を作ること。肌が重い感じになりますが、冬の寒風にさらす時など、肌のガードには最適です。高価な油なのか、市販の石鹸で使われていることはマレです。探せばあるのかもしれませんが、手作り石鹸などでチラホラ見られます。シアバターなども同様の働きをします。


保湿力のある石鹸を作る油 オリーブ油

 よい石鹸の基本となるような油です。食用としてもさまざまなグレードがあり、上級の方が石鹸作りにも適していると思われがちですが、食用としてはくせがあり嫌煙される下級な油の方がオリーブの成分が多く含まれ、石鹸作りには適しています。オレイン酸を多く含み、やややわらかめで、冷水にもよく溶ける石鹸ができます。

・オレイン酸
 石鹸作りには非常に適した脂肪酸であり、この脂肪酸を多く含む油で石鹸を作ると、洗い上がりの肌のうるおいとすべすべした感触が楽しめます。また、この脂肪酸は酸化しやすい不飽和脂肪酸に分類されますが、不飽和脂肪酸の中では酸化しにくいため、長期保存による石鹸のいたみも少ないです。脂肪酸の融点が低いため、冷水でもしっかり溶け、十分な洗浄力を発揮できます。つばき油などでも同様の特徴を持つ石鹸ができます。


調理用油でも石鹸は作れるけど なたね油

 なたね油といってもパッとわからないと思います。一般に調理用として出回っているキャノーラ油やサラダ油の正体は、実はなたね油です。キャノーラ油はなたね油一種、サラダ油は“サラダに適した油”という意味。油としては、大豆油となたね油を混ぜたものです。

 この油は石鹸には適していません。これらの油にはリノール酸が多く含まれるため、この油で石鹸を作ると非常にいたみやすくもちが悪い石鹸になります。また、石鹸にすると、この油に含まれるアルファ・リノレン酸が急激に劣化し、異臭がすることがあります。

サラダ油に至っては、その主成分である大豆油がとても劣化しやすいため、キャノーラ油よりさらにいたみやすい石鹸になります。また、大豆油が含まれるとやわらかすぎる石鹸になるため、製品としてはサラダ油が石鹸の原料となることはないです。

 また大豆油となたね油ではけん化率が違うため、その混ぜた割合が分からなければ石鹸にすることができません。でも、この割合は企業秘密として公開されていないようです。

・リノール酸
 皮膚の水分を保つ角質層のバリアの増殖を助ける働きがあるなど、この脂肪酸を多く含む油で石鹸を作ると、肌の健康に良い石鹸ができます。ただし、酸化速度が早い脂肪酸(オレイン酸の10倍)なので、長期保存に適さない石鹸になります。

・リノレン酸
 この脂肪酸を多く含む油は、さらっとして乾燥が早いため、湿潤性の肌の炎症をおさえる働きがあります。しかし、この脂肪酸の酸化速度はリノール酸よりさらに早く、オレイン酸の15倍から25倍とも言われています。この脂肪酸を多く含む油で石鹸を作ると、やわらかく溶けやすい石鹸になり、洗い上がりは軽くてさっぱりします。しかし、長期保存には適していません。


日本ではメジャーな動物性の油 牛脂

 イギリスや北米など英語圏で石鹸作りに使われてきた脂です。この脂を原料とした石鹸で有名なのがイギリスのウィンザー石鹸です。牛脂は融点が高いため、溶け崩れしないしっかりした石鹸が作れます。この脂で石鹸を作ると早く固まり作業がしやすい。そのため製造に適しており、また長期保存にも問題がありません。この脂に泡立ちをよくするためココナッツ油を加えたものが、日本で市販されている石鹸になります。

 ただ体温より融点が高い石鹸なので、洗い上がりがあまりさっぱりせず、肌の上に薄い膜がのったような違和感があります。また、「毛穴をふさぎ、黒ニキビの原因となり、敏感肌の場合に湿疹を起こす可能性がある」と言われています。さらに、水分透過性のない油性の膜を作るため、それにより発汗がさまたげられ、人によっては、熱を伴った炎症や汗疱(カンポウ)のような湿疹の原因になることも分かっています。

 これと同様の特徴を持つのが豚脂(ラード)から作られた石鹸です。この脂で石鹸を作ると、製造しやすく保存も効く、商業的には優れていますが、人体にはあまりよくないみたいです。


安いけど… 合成洗剤を固めて作った石鹸(本当は石鹸ではない)

 3個180円とかで売られている固形石鹸は、本当は石鹸ではなく、いわば洗剤を固めたようなものです。成分表には界面活性剤と書かれ、カッコ書きでその中に含まれる物質が書いてあるのが特徴。私は安さにつられ使ってみましたが、肌はパリパリするわ、髪はツッパって爆発するわ。3日目にして風邪をひきました。人によると思いますが、これは使ってよいものではなかったですね。

 学校では「どこでも石鹸をつけて手洗い」と言われ、あらゆる場で手を洗わせられます。でも、石鹸は大量生産で安価な合成洗剤ばかり。手を洗えば洗うほど肌がいたむ。子供は先生の言うことをそこまで忠実に守らないからまだよいのかもしれませんが、考えさせられます。