2024/01/05 09:00

 “石鹸(セッケン)は簡単に作れる”確かに石鹸は油に苛性ソーダを入れれば比較的容易に作ることができ、親子で手作り石鹸など時々聞きます。しかし、苛性ソーダは水酸化ナトリウムという劇薬であり、水に触れると発熱し、皮膚につくと皮膚が溶けてしまうほど。昔、シリアのアレッポにあった石鹸工場では、苛性ソーダのアルカリ水を溜めた壺を地面に埋めていたため、人や家畜がそこへ落ち、死んでしまう事故が発生しました。「落ちたらまず助からない」当時の人たちはそう語っています。想像するも恐ろしい話です。


 苛性ソーダは、油と結びつき、脂肪酸ナトリウム(石鹸)になることで、安全な物質に化しますが、油と十分混じり合っていなかったり、油の量がたらず、十分にすべての苛性ソーダが反応せず残ってしまったりすると、その石鹸を使うと皮膚がピリピリと痛み、肌を痛めます。もし少しでも刺激を感じたなら、その石鹸は廃棄しなくてはなりません。そのため、多くの場合、9割の油が石鹸に変わり1割の油が残るぐらいの割合で苛性ソーダを配合します。つまり石鹸の1割は元の油がそのまま残ることになります。

 苛性ソーダの危険性に考慮しすぎて油を多くしてしまうと、今度は石鹸が固まらず、ただの廃油になってしまいます。石鹸として固まらなかった廃油は、しっかり袋に詰め、それ相応の方法で廃棄する必要があります。台所の排水管に流すのは絶対にダメです。油の廃棄は厄介です。苛性ソーダが含まれる廃油となるとさらに厄介です。幸いにも油が固まり、石鹸ができたとしても、その石鹸には1割ほど元の油が含まれます。また、石鹸になっても、油の中にあった刺激物はそのまま残ります。この石鹸で肌を洗って、本当に安全でしょうか?確かに石鹸によって汚れは落ちますが、あまり健康的とは思えません。

 実際、廃油で石鹸を作っても、作る楽しみを味わうだけ。それほど使わず廃棄してしまうことが大半でしょう。使ってみても、廃油の汚れが出たり、肌に刺激があったりして、すぐに使用をやめてしまうのではないでしょうか?

 多くの方は “親子で作れる石鹸” などを聞き、石鹸作りを安易に考えています。しかし、人々が、毎日使い、肌の衛生と健康を維持していくための石鹸には、油の選定からそれを石鹸にする過程一つ一つ、職人の熟練した技術が必要です。皮膚に直接つけるものだけに、安易に自家製石鹸を使うことは、皮膚の健康を損なう恐れがあります。